“ガラスペンの性能検証”って?
ガラスペンの筆記具としての性能的なところを見ていこうという、この企画。
第二弾は、1回のインク浸けで「どのくらい書けるの?」について、調べて見ます。
「原稿用紙1枚」書けると聞きますが…
軽く水洗いするだけで、すぐに別のインクを使えるのがガラスペンの魅力の一つ。
でもそれって昔からある“つけペン”と変わりませんよね。
つけペンとガラスペンの大きな違いの一つ。
それは、ガラスペンの方が1回のインク浸けで書くことのできる量が多い、ということです。
よくガラスペンについての説明を読んでいると、原稿用紙1枚書けるとか、便箋1枚書けるとか書いてありますね。
そのあたりを実際書いて確かめましょう、というのが今回の目的です。
“筆記文字数”の検証方法について
今回調べようとしている「1回のインク浸けでの筆記文字数」。
これは、正直言うと、ペン先へのインクの浸け方次第です。
このため、結果のブレを小さくするため、以下のようなルールを作りました。
(※通常のガラスペンの使い方とは異なる点があります。)
- ペン先(溝がある部分)をすべてインクに浸ける
- 原則として、インクに浸けた後、インク瓶の縁などで余分なインクを落とさない
(ただし、書き出した際、インクが紙に乗り過ぎてしまう場合のみ、少しインクを落とす)
概要は以下のような感じです。
- 用紙:満寿屋 / 原稿用紙 No.101 クリーム紙 B5判 200字詰 グレー罫 ルビ有り
(インクの吸い込みが良く、線幅は若干細めになる印象です。) - インク:パイロット / iroshizuku 天色
- 筆記内容:夏目漱石「坊ちゃん」冒頭
- 書き始めたら終了まで、ペン先をインクに浸けない
- インクが薄い箇所ができても、二重書きや二度書きは行わない
- ペン先は適宜回転させ、全ての溝のインクを使い切るようにする
- 原稿用紙1枚を書き切るか、文字が掠れて書けなくなったら終了
- 短時間で書き切るため、4行目を書き終えた時点で吸い取り紙を使い、書いた文字の余分なインクを吸い取る。
(※上記の5番目のルールにより、1~4行目のインクが薄い箇所は、吸い取り紙が原因の場合があります。)
今回の検証での比較対象
今回の検証も、第1弾と同様、「Favorite Note」で取り扱っている以下のガラスペンを対象としました。
- ピエール・カルダン / ガラスペン Duo3 ×3本 … 線幅:EF(極細)
- エルバン / ガラスペン つむぎ ×3本 … 線幅:M(中字)
- the NEON / シンプルガラスペン 虹色 ×3本 … 線幅:EF(極細)
- 伊勢硝子 / ガラスペン ×3本 … 線幅:M(中字)~B(太字)
(※上記の線幅は、「ガラスペンの性能検証1」の結果から、最も多いと思われる線幅を記載しています。)
“ガラスペンの性能検証”って?万年筆インクのブームを追い風に、最近人気のガラスペン。ガラスという素材本来の美しさに加え、シンプルなものから凝ったものまで多様なデザインも楽しめます。加えて、複数のインクを手軽に使い分けられる便利さ[…]
また、各ペンのペン先は画像のようになっています。
※画像は左から…
1)「ピエール・カルダン/Duo3」
2)「エルバン/つむぎ」
3)「the NEON/虹色」
4)「伊勢硝子/ガラスペン」
の順です。
それでは早速、結果を見ていきましょう。
ピエール・カルダン / Duo3
まず最初は、ピエール・カルダン/Duo3 。
今回の比較対象の中では最も低価格で、輸入品となります。
ペン先は、細いものの長さは長く、溝にねじりが入った形状。
インクを溜める容量は比較的大きそうです。
また、線幅が概ねEF(極細)前後であることから、筆記文字数は割と稼げそうです。
で、結果は以下の通り。(字が汚くて申し訳ありません。)
個体差を考慮して、3本での結果を掲載しています。
【1本目】
6行目くらいから、インクが薄くなり始めています。
なんとか最後まで書いていますが、最後の2行は、インク不足となっています。
(※4行目のインクの色が薄くなっているのは、5行目を書く前に、吸い取り紙で余分なインクを吸い取ったためです。)
【2本目】
1本目と同様、6行目くらいからインクが不足気味となっています。
一応、最後まで書けていて、1本目ほどインク不足は目立ちません。
【3本目】
1本目、2本目よりも、後半のインク不足は目立ちません。
インク不足が感じられるのは、最後の2行という印象です。
- 個体差が多少あるものの、一応原稿用紙1枚を書き切れるケースが多い。
- ただし、後半から終盤にかけては、徐々にインクが薄くなる。
エルバン / つむぎ
続いて、エルバン/つむぎ。
こちらは、Duo3に次いで2番目に低価格。
こちらも輸入品となります。
ペン先は、中央にふくらみがあり、溝が直線な一般的な形状。
ペン先のサイズは、the NEON/虹色より大きく、インク容量は割とありそうです。
結果はご覧の通り。
【1本目】
書き始めは線幅が多少太いですが、1行目の中ほどから細くなっています。
4行目の途中から掠れが目立ち、5行目で書けなくなっています。
【2本目】
1本目よりも筆記量は多めです。
書き出しの線幅は割合と太く、3行目にかけて徐々に細くなっています。
5行目後半からは文字が掠れてきています。
インクの残っている溝があるので、掠れながらも書き続ける感じです。
最終的に7行目で書けなくなっています。
【3本目】
今回、エルバン/つむぎでテストしたものの中で、最も筆記量が多くなっています。
1本目、2本目と比べ、書き出しから線幅は細めです。
5行目以降、掠れが目立ちますがますが、掠れながらも書き続けられています。
最終的には、9行目で書けなくなっています。
- 掠れながらも筆記できる量としては、200字詰め原稿用紙の40~70%というイメージ。
- 個体差が割と大きく、線幅が細いペンで筆記文字数が多い傾向。
- 書き始めは線幅が太いが、3行目程度からインクの薄い箇所が出てくる。
- 線幅が太いため、書き始めに多くのインクを消費してしまう印象。
また、今回のテストの中で、エルバン/つむぎは同じペンであっても、テスト毎の結果のブレが割とありました。
ちなみに先の「3本目」のペンについて、結果のブレを見ると、以下のようになっています。
【3本目/筆記文字数が少なかったケース】
書き出しの線幅が太く、ここでのインク消費が多い印象。
5行目からは掠れが激しく、7行目で書けなくなっています。
【3本目/筆記文字数が多かったケース】
全般を通して、線幅は細め。
6行目辺りから、インクの薄い箇所が目立ち始めてます。
掠れが目立つのは8行目辺りから。
掠れつつも最後まで書き切っています。
- 同じペンでも、テスト毎の筆記文字数の”ブレ”が大きいケースがある。
- 太い線幅での筆記が多いと筆記文字数は少なくなり、細い線幅での筆記が多いと筆記文字数は多くなる傾向。
- 1本のペンの中に線幅の太くなる角度、細くなる角度があり、その使い方によって筆記文字数が増減する印象。
the NEON / 虹色
the NEON/虹色は、国内の工房で作られているペン。
今回の4本の中では、上から2番目に高い価格です。
ペン先は、今回の中で最もコンパクト。
中央部のふくらみも無く、溝もほぼストレートなので、インク容量は小さそうです。
線幅は概ねEF(極細)です。
【1本目】
最初の数文字はインクが多く乗って線が太くなっていますが、それ以降は安定して細い線幅です。
3行目以降、ところどころ溝のインクが減ってきてインクが薄くなる箇所があります。
7行目辺りからインクが掠れる箇所が増え、10行目で書けなくなっています。
【2本目】
書き出しの箇所を除き、全体を通して安定して細い線幅。
ところどころインクが薄い箇所が見られます。
終盤、多少掠れつつも最後まで書けています。
【3本目】
2本目とほぼ同様の傾向。
書き出しの箇所を除き、線幅は全体を通して安定して細め。
大きく掠れることなく、最後まで書けています。
最後の行の文字を見ると、2本目より線の色が多少濃く、インクの残量に少し余裕がある印象です。
- 個体差が多少あるものの、大きく掠れることなく原稿用紙1枚を書き切れるケースが多い。
- 線幅が細いこともあるが、見た目以上にインク容量は多い印象。
伊勢硝子
最後の伊勢硝子は、その名の通り、伊勢神宮外宮にほど近い場所にある工房。
今回のテストの中では最も高いガラスペンとなります。
ペン先は、中央にふくらみがあり、溝が直線な一般的な形状。
ペン先のサイズは、エルバン/つむぎよりも少し大きい印象で、インク容量は比較的大きそうです。
また、今回の伊勢硝子のガラスペンは線幅が太いため、インクに浸けてからそのまま書き出すと、インクが乗り過ぎて文字がかなりつぶれてしまいます。
このため、伊勢硝子のガラスペンについては、書き出しの文字がつぶれすぎないよう、多少インクを落として書き始めることとしています。
結果は以下の通り。
【1本目】
1~5行目は比較的インクも多く、安定して筆記できています。
6行目からインクの薄い箇所や掠れが増え、10行目で書けなくなっています。
【2本目】
1~5行目は比較的インクも多く、安定して筆記できています。
6~8行目では、インクの薄い箇所が多少発生。
9行目からは掠れが発生しているものの、最後まで書き終えています。
【3本目】
書き出しの文字はインクの乗りが多く、少しつぶれ気味。
1~7行目は、基本的にインクが十分ある印象。
(3、4行目のインクが薄い箇所は、インクの吸い取り紙によるもの。)
9、10行目はインクの薄い箇所が目立っていますが、さほど問題無く最後まで書き終えています。
- 個体差があるものの、終盤多少掠れが発生しつつも、原稿用紙1枚を書き切れるケースが多い。
- 線幅が中字~太字ということを踏まえると、ペン先のインク容量は比較的大きい印象。
- ペン先につけたインクが多いと、書き出しの文字がつぶれやすい。
伊勢硝子のガラスペンの場合でも、同じペンでもテストによって結果のばらつきが大きいケースがありました。
(伊勢硝子のガラスペンでは、最初にインクを少し落としますので、その影響もあります。)
今回のテストでは、「1本目」のペンで、結果のばらつきがありました。
【1本目/筆記文字数が少なかったケース】
書き出しから1行目はインクの乗りが多く、線幅が太めになっています。
4行目、5行目辺りからは、インクが不足気味。
6行目からは掠れが目立ち、8行目で書けなくなっています。
【1本目/筆記文字数が多かったケース】
書き出しから前半にかけての線幅が、あまり太くないケース。
5行目辺りまでは特にインクの薄い箇所も無く、6、7行目からインクの薄い箇所が目立ち始めています。
9、10行目はかなり掠れが目立ちますが、なんとかほぼ最後まで書き終えています。
- 書き出しの文字がつぶれないよう、インクを少し落としてから書き始めていることが、“ブレ”の一因となっている印象。
- 書き出しの線幅が太いと、そこで多くのインクを消費してしまい、インクの持ちが悪くなる模様。
番外編:セーラー万年筆/万年筆ペン先のつけペン hocoro 細字
最後に、番外編としてつけペンの筆記文字数の例として、hocoro 細字でのテスト結果を見て見ます。
1行目の終盤で、急速に掠れ出しています。
2行目に入ったところで、完全に書けなくなっています。
hocoroは万年筆のペン芯に当たる部分が無く、ペン先だけですので、インクを溜めておく機能はありません。
このため、今回のテストでは、1行目の終盤で掠れてしまう結果となりました。
やはり、つけペンとガラスペンでの、1回のインク浸けでの筆記文字数の差は歴然ですね。
結果を整理すると
以上の結果をざっくり整理しますと、下表のようになります。
線幅(字幅) | 1回のインク浸けでの筆記文字数 | |
ピエール・カルダン/Duo3 | EF(極細) | 後半~終盤で掠れつつも、200字詰め原稿用紙1枚を書き切ることができるケースが多い。 |
the NEON/虹色 | EF(極細) | 後半~終盤で掠れつつも、200字詰め原稿用紙1枚を書き切ることができるケースが多い。 |
エルバン/つむぎ | M(中字) | ペン毎の個体差が大きく、掠れながらも筆記できる量としては、200字詰め原稿用紙の40~70%というイメージ。 |
伊勢硝子/ガラスペン | M(中字)~B(太字) | 終盤で掠れが発生しつつも、200字詰め原稿用紙1枚を書き切ることができるケースが多い。 |
やはりインクの消費が少ない細字の方が、今回のテストでは有利でした。
その点、線幅が太いにも関わらず原稿用紙1枚書き切った伊勢硝子のガラスペンは、とても良い結果という印象です。
ただし、今回は比較のため、インクが少なくなっても無理して筆記を続けましたが、実用上は、原稿用紙1枚書く中で2~3回はインクに浸けた方が快適に書けますね。
それでも、つけペンと比べたら筆記文字数はかなり多いですが。
本記事は、数多くのガラスペンの中で、ごくごく一部のサンプルをテストしただけですが、何かのご参考になれば幸いです。
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